秋味を飲む
いつの間にやら立秋も過ぎ、今日にいたっては涼しいと感じるくらいである。
また暑さが戻ってくることもあるだろうが、今など開け放ったベランダの方からは蝉ならぬ虫の声が聞こえる。
秋のようである。
べつにキリンの回し者ではないが、秋味の季節である。
このビールはなぜかうまい。
「麦芽たっぷり1.3本分(当社比)」と書かれているが、それが理由であるのかどうかは判然としない。
「秋だけの限定醸造」だそうだが、特別な製法を使っているのかどうかなど知る由もない。
紅葉舞い散る缶のデザインをはじめ、季節限定を謳った広告戦略にやられているのではないかと言われれば、おそらくそうであろう。
とにかくこれくらいの時期になると、コンビニの棚を眺めていてふと秋味を見つけ、もうそんな季節になったのかと感じ入ると同時に、無性に飲みたくなるのが毎年のことである。
昨日、今シーズン初めての秋味を飲んだ。
やはりうまかった。
物質的に飽和し、情報に浸透されきった先進社会において、欲望とはもはや天然自然のものではなく、むしろ創造され操作されるものであるという見方(より正確に言えば、欲望のそのような側面はいわゆる「先進社会」において初めて形成されるというわけではなく、最も先鋭に露呈するということだが)が真であるとしても、ともあれ欲望が満たされることには充実がある。
秋味を飲むぼくは満足である。
授乳中でアルコールを摂取できない嫁さんには少し申し訳ないが、しばらくは秋味を飲み続けるであろう。